YMOの遺産
YMO WINTER LIVE 1981


★「ONE MORE YMO」全曲解説★

※文中の『』内の記述は、すべて高橋幸宏氏によるライナー解説文からの引用です。

YMO WINTER LIVE 1981





 1981年に放った2枚の問題作「BGM」「TECHNODELIC」を引っさ

げて行った国内ツアー。全国9都市13公演を行なった。わかりや

すく軽快なテクノ・ポップから一転、暗くヘビーなサウンドに変

化し、ファンを戸惑いさせながらも、当のメンバー達は、2枚の

アルバムにより『それなりの達成感があったから、精神状態は必

ずしも悪くなかった』ようで、『なかば自虐的に、あるいは本音

の部分でも結構楽しんでた』。



 舞台美術は奥村靱正が手掛け、幾何学的な形状のパネルにカラ

フルなデザインがほどこされ、ごちゃごちゃした機材群を視覚的

にカバーし、総合舞台芸術的なアート面が強調された。ステージ

前方にはライブ中盤まで薄い幕が下ろされており、演奏している

YMOの映像が映し出され、いつの間にか幕の後ろの現実のYMOのス

テージと入れ替わるなど、幻想的な雰囲気の中で進行する『本当

に抑えたストイックなライブ』であったが、アンコールでは、お

馴染みのライディーン/テクノポリスのヒット曲の演奏で『最後

はサービスするってところが、どうしても僕たちのいいところな

んだけど(笑)』とファンの「切り捨て」と「サービス精神」が

絡み合ったライブだった。



 「歌謡ショーの殿堂」東京・新宿コマ劇場でのライブが話題に

なった。このステージ・ワークで奥村はADC賞を獲得した。



ステージ・セッティング





 Prophet-5のライブ、と言ってもいいほど機材は簡素化された。

しかしながら、Prophetのサウンドは以前のワールド・ツアーのも

のと大きく異なり、特に坂本の強烈なディストーション・サウン

ドは、2次ツアーでの過激さ/破壊性がよりパワーを持って炸裂

する。



 当時は田中康夫の小説「なんとなくクリスタル」がベストセラー

となり、『中庸意識が蔓延してて、ブランド志向』を持つ"クリス

タル族"と呼ばれる若者が全盛となる中、『それがすごく陳腐に思

えて、そういうものへの反発がどんどん音に出ちゃった』結果、サ

ウンドだけでなく『一番メイクとかヘアが過激だった』ライブであ

った。



 また世界初のサンプリング・アルバム「TECHNODELIC」で活躍し

たオリジナル・サンプリング・マシーン「LMD-649」は、パーカッ

ション・サウンドとしてステージに登場。『まだMIDIが出てなかっ

たので、それをトリガーで鳴らす』方法で、振動センサー内蔵のト

リガー・パットを叩いてLMD-649は演奏され、半数以上の曲で「立っ

てドラムを演奏する」スタイルを取った。しかし、センサーも未熟

で『足でこうやっても「ガーン、バーン」って鳴っちゃったりする。

そういう状況』でのライブシステムの実験的要素も多く含んでいた。



 サンプリング・キーボードの初代Emulator(8ビット)も導入さ

れ、細野はパーカッション系のサウンドを、坂本教授はピアノ音源

として演奏される。「CUE」でドラムを、「NEUE TANZ」ではギター、

「体操」ではメガホン(TOAの拡声器)片手に"右むけ右!"と坂本教

授が大活躍。その坂本パートのディレイにはローランドSDE-2000が

使われ、これまでのアナログ・ディレイからデジタル・ディレイへ

移行する。



 その他、細野のE.ベースのプレイも多くの曲で聴けた。バッキン

グに初めて8チャンネル・テープを使ったり、シーケンサがMC-8か

らより安定したメモリー48KBのMC-4Bに変わったのもこのライブか

らである。松武ブースのProphet-5はMC-4Bで演奏され、MC-4B用に

改造されている。

ONE MORE YMO! WINTER LIVE '81

M-12:PURE JAM M-13:SEOUL MUSIC M-14:MASS 東京・新宿コマ劇場@1981.12.23,24




 「PURE JAM」では、初日の演奏では『バッキング・テープの精

度が悪くて、出だしの8小節が回転ムラが酷くて音が揺れてる』

ために、翌24日の演奏が収録された。今であればサンプラー、も

しくはデジタルのHDRなどで簡単に演奏で使えるが、当時はサンプ

ラーもまだまだ未熟のうえ高価であった。そういう点からも『テ

ープを使ったのもかなり実験的』なライブだったと言えよう。



 曲そのものは、レコーディング・スタジオのビルにある喫茶

店の分厚くておいしくないトーストをとった時の『こんな不味

そうなパン見たことないよね』というのをそのまま歌詞にした内

容。たまたま、英国のスラングで「ジャム」を「偶然」と言うこ

ともあり、海外ではシュールに受けとめられ『この詞が好きな外

人が多い』という。「ミヨン、ミヨン」というSEは細野が口で喋

ったものだ。



 残り2曲は、実験的な部分よりも、3人のミュージシャンとし

ての力量が全面に出た演奏。「SEOUL MUSIC(京城音楽)」は、ベ

ースとドラムの演奏が聴きどころ。『2人の跳ね方、すごく似て

るんです』という高橋のドラミングと細野の弦ベースが『レコー

ドより全然ドライヴしているんです』。アルバムではハンド・ト

ーキーを使った台詞を、ライブでは坂本がメガホン(拡声器)を

使って行なっている。



 「MASS」では、アルバムと違い、カクテル・ピアノのようなメ

ロディーが印象的。『細野さんと教授が掛け合いでキーボードを

弾いていて、僕が生ドラムを叩いているという、究極のカタチ

ですね、本来のYMOの。』という中期YMOの独特な演奏だ。



 これだけ歴史的にも貴重なライブにも関わらず、ライブのマル

チ・テープが存在していないことは非常に残念ではある。




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