2001.6.30@東京・SHIBUYA AX
6月30日午後3時、渋谷。さっきまで降っていた雨は、なんとか止んだが、空はどんよりとした鉄
色のまま。会場に近づくと、すでにリハーサルは始まっているようで、大音響がもれ聞こえている。
天気とは反対に、だんだんと気持が高まって行くのがわかる。
「東京でワンマンやるときは、必ず雨が降るんですよ。ポリって雨バンドなんですかね(笑)」と、
楽屋口に出迎えてくれたスタッフと談笑しながら舞台袖に到着。すると、ステージでサウンド・チェ
ック中のハヤシが
「あっ、チワっす!」
と声を掛けてくれた。ポリシックスのライブはインディーズ時代から知っているが、ライブ本番での
ハヤシのテンション(暴走、と言った方が適切かもしれない)と、普段のとても人懐っこく気さくな
彼が、どうしても同一人物として結び付かない。これがいつも謎なのである。レポート用の機材写真
を撮っていると
「ちゃんと撮れました?おー、いいっすねぇ」
とのぞいてくるハヤシ。彼だけではなく、カヨやフミ、そしてスガイも、みんなステージで演奏して
いる姿とは別人に見える。目の前にいる彼らが、いつどうやってポリシックスに変身するのか? そ
れが今日の最大の興味でもあった。しかし、本番直前に楽屋口で見かけた彼らの様子は、ステージ衣
装こそ身に着けているが、まだまだリハーサル時と同じまま。残念ながら、変身の瞬間はまだ見れな
いまま、彼らのステージを観るべく、客席へと急いだ。
●●●
予定よりも10分ほど遅れて一斉に客電が消え、会場には大歓声が沸き起こる。間髪入れずにニュー
アルバムのオープニング曲が響き渡った。
1.WAKE UP! POLYSICS
ステージの緞帳が上がると、そこには全く何もない空間が広がっているだけで、一瞬狐につままれ
たような気分。すると、舞台天井からゆっくりとミラーボールと「POLY」の大団旗がゆっくり降り
てくる。そして、微動だにしないハヤシとカヨ、フミとスガイを乗せた、それぞれのブースが両サイ
ドから登場すると、客席の興奮は頂点に達する。ステージにいるのは、もうさっきまでの彼らとは違
う、紛れもなく、ポリシックスに変身した4人だ。
2.NEW WAVE JACKET
3.WEAK POINT
「I Hope you enjoy it!」いうフレーズに合わせたコミカルなハヤシのパフォーマンスが終わる
と、『NEW WAVE JACKET』のイントロが流れ、スガイとフミの力強いビートがドライブする。ハ
ヤシがかき鳴らすギターに乗って、横を向いたまま何事もないように歌うカヨのボーカルは、これま
でに比べて、よりクールなものに感じられた。より洗練されたクールさ、とでも言うべきか。
4.Married To A Frenchman
5.Eleki Gassen
6.KASUGAI
7.each life each end
聞き慣れたシーケンスとともに、インディーズ時代から人気の2曲が立て続けに演奏される。ボコ
ーダー演奏時に、ようやくカヨが正面(客席)を向いてくれたが、ボコーダー・フレーズを演奏し終
わると、すぐに「私、忙しいの」とでも言いた気に、またソッポを向かれた(笑)。
彼女は『KASUGAI』では、両手をバタ足のようにコミカルに動かして鍵盤を弾き、『each life
each end』では、ロボットが踊るパラパラの様に、BIASに機械的にチョップする。一方、ハヤシは
ステージを所狭しと動き回り、観客を煽ること煽ること。一見すると、まったくもってギャップだら
けの4人なのだが、不思議なことに、それぞれのパフォーマンスに温度差は感じない。動かなかろう
が、暴れ回ろうが、みんな同じテンションでステージをこなしているのだ。「この不思議なギャップ
感は何なんだろう?」という疑問が頭の中をグルグル回る。
『each life each end』のエンディングでは、スガイがシンバルをターンテーブルのように擦って
DJのスクラッチの真似をして笑いを誘い(疑似スクラッチ音はギターで鳴らしていた)、一気に7
曲を走り抜けて張り詰めていた会場の空気が、一瞬和らぐ。相変らず、細かいエンターテインメン
トも演奏の端々にちりばめられている。そして、1回目(にして最後)のMCブレイク。
「はい、秋元康です!」
で始まったスガイのMCに“へへへ”と笑い、ハヤシの
「僕たちポリシックスっていうバンドでして…」
という極々普通の挨拶に“わかってる、っつーの”と心の中でニヤリとしながらツッコミを入れつ
つ、さっきまでの熱狂的な演奏と、あまりに普通過ぎる喋りに、またまた「?」マークが炸裂して
しまう。どの姿が本物の彼らなのか?
8.SPARK
9.H MAJOR
「ポリシックス初の16ビート/ディスコ・チューンです!」
という紹介で演奏された最新シングルのカップリング曲『SPARK』に続いて、リバーブたっぷりの
ドラム・フィルインで『H MAJOR』が始まる。新譜『ENO』の中で、唯一インストルメンタルなこ
の曲は、アルバムではツイン・ギターのニューウエーブ・ポップス的なイメージがあったがライブ
では、ベースとドラムが強調され、ロック色の強い演奏となっていたのが印象的だった。
10.COMMODOLL
今回のライブの、間違いなくメイン・イベントであろうこの曲について、以前ハヤシはこんなこと
を言っていた。
「レコーディングの時、最初は普通に僕が歌ってたんですよ。普通の声で哀愁のある曲を作ろうとし
て。で、仮歌を録ったんですが、家に帰って聴いてみると、なんか感情を入れ過ぎて熱いんですよ。
熱くて、何か寒いなぁ、カッコワリー、と思って。で、ボコーダーで歌ってみます、って録音し直し
たら…感動でしたね! 今回発見したんですが、感情のある歌を感情を込めて歌うとカッコ悪いんで
すよね。これを感情のないロボット・ボイスで歌うと、より哀愁感が増すんですよね。スタジオで泣
きましたよ。アルバムの中でもかなりお気に入りの曲です。(ハヤシ)」
スガイの力強いキックとフミのどっしりとしたベースで始まるミディアム・ビートに、じっくりと聴
かせるボーカル。そのボーカルがボコーダで歌われるというのが、いかにもポリシックスらしい。奇
抜なサウンドと勢いだけで押し通すのではなく、演奏力も含めてバンドとして成長したポリシックス
の新たな側面を感じることができた、貴重な演奏だった。
11.MAKING SENSE
12.BYE BYE RED SNEAKER
『MAKING SENSE』が終わるとメンバーはそろってジャケットを脱ぎ、臨戦態勢となる。ノリのいい
ポップ感で突っ走った第一部、じっくり聴かせる第二部、そして怒涛の第三部の始まりだ。もちろん
カヨだけはジャケットを脱ぐこともなく、冷静に、淡々と次の曲の準備をしていたけれども。

13.XCT
14.KI.KA.I.DA!
15.URGE ON!!
16.go ahead now!
17.BUGGI TECHNICA
『XCT』が始まると、もう会場はダイブの嵐。圧倒的な音圧とスピード感の中で、トリッキーなシ
ンセ音が頭の中を駆け抜ける。ハヤシは絶叫するし、フミはメガネを吹っ飛ばしながら演奏するし、
スガイのドラムはデカイし、カヨは冷静にプログラムをこなすし、大変なんですから、モウ。これま
で、熱いながらも堅実なプレイに徹していたフミも、ステージ・フロントを走り回り、単純明解、直
球勝負のロック・モード全開だ。そんな興奮状態の中でも、カヨの涼しい一挙一動に、観客は確実に
反応し熱狂している。なんか「卑弥呼」って、こんなパワーを持ってる人だったのかなぁ、などとど
うでもいいことを考えてしまった。
18.AT-AT
もう、こうなると誰にも止められない。まさにMUSIC NON STOP。本編最後の『AT-AT』では、
ハヤシがなんと客席にダイブ! 命からがらステージに戻ったものの、ギター(とスニーカー)を奪
われ、結局ギター無しでボーカルを絶叫、ステージを転げ回る。そんなハヤシに目もくれずに、自分
の演奏パートが終わるとスタスタとカヨがステージ袖に消え、続いてスガイとフミも退場。残ったハ
ヤシは客席から取り戻したギターを蹴りまくり、フィードバック音だけを残してステージから去って
いった。
EN-1.ENO
EN-2.1&I
EN-3.BECAUSE
アンコールの手拍子の中、ハヤシがひとりで登場。カヨのブースで、自らシーケンスをスタートさ
せると、『ENO』のカラオケにあわせて操り人形のような宇宙人ダンス(?)を披露すると、観客か
らは歓声と「オイ!オイ!」という掛け声の大合唱が起こる。ハヤシは、ちょっと危ないパフォーマ
ンス(苦笑)で宇宙語ボーカルも絶叫しつつ、SE部分では、シンセ・ブースに駆け上がりPolysixと
Nordlead2をぎゃんぎゃん鳴らしまくり、おもちゃのピアノを大真面目に弾く真似など、小細工なし
の今回のライブで、一番ユーモラスな時間となった。
そしてメンバー全員が再登場し、『1&I』の軽快な演奏が終わると客席が明るくなる。
「楽しかったです。これからもポリシックスをよろしくお願いします。では、サヨナラ!」
確実に変化を遂げたこのツアーの締めくくりは、ポリシックス結成初期に作られた『BECAUSE』
だった。演奏が終り誰もいなくなったステージには、
「ありがとうございました」
というハヤシの声のディレイ・サウンドが、いつまでも鳴り響いていた。
●●●
今回のライブを観て感じたのは、とにかく「垢抜けたな」ということ。別の言い方をすると「プロっ
ぽくなったな」とも言えるかもしれない。ツナギからジャケットに着替えた事も象徴的ではあるのだ
が、どこかこれまでよりも、自分達の姿を冷静に客観視しているように思える。そしてメンバーの個
性が、より鮮明に表われながらも、より4人組のロック・バンドとしての密度が濃いくなっている。
もちろん、これまでのようにツナギを着て、とにかく熱狂的に暴れまくるライブが好きなファンも多
いだろう。しかし、あえて新しいスタイルを取ったこのWORLD TOUR 2001は、明らかにポリシッ
クスの新しいステージの幕開けと言えるだろう。そして、これは見た目とは裏腹に、インディーズ時
代を含めた今までの中で、もっとも過激で毒を持った彼らの姿に思えてならない。
「DEVOも単純に“ダサかっこいい”っていうところがあるじゃないですか。そこが好きなんですよ
ね。僕も、最初DEVOは“ヘタウマ”ってイメージしかなかったんですけど、でもすごい変拍子の曲
とか超プログレっぽい曲とか人力でやってるじゃないですか。だから巧いんですよ実は。“ダサかっ
こいい”のは、きっと確信犯なんです。巧い上でライブとかでテンションがバーッと上がって、下手
になっちゃう、という感じはあると思うんですけど(笑)それはかっこいいんですよね。(ハヤシ)」
ステージ上での狂気とも言えるハヤシのテンションは、本物なのか、それとも冷静に『ハヤシ』を演
じる確信犯なのか。ライブの感動を伝えようと急いで楽屋に行くと、そこにはもうポリシックスのジ
ャケットを脱いだ、普段のハヤシがいた。
「どうでした? よかったですか、ありがとうございます。ハハハ」
ますます謎は深まってしまった。
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