Fantastic Plastic Machine

立東社『プリプロダクション』2001/2月号掲載



"美しい音楽"が
僕からの21世紀に向けての
プレゼンテーション



 DJやリミックスはもちろん、東京スカパラダイスオーケストラと

共演で話題を呼んだ"SPEEDKING"など多彩な活動を行なう田中知之。

海外でも高い評価を受けている彼のソロ・プロジェクト"Fantastic

Plastic Machine"の待望のサード・アルバムは、単に"DJが作った

作品"だけで片付けられない、楽曲としての主張を持っている。音楽

本来が持つ美しさ=ビューティフルさを追求したアルバム収録曲のそ

れぞれが持つ説得力はどこから来るのだろうか。その秘密に迫ってみた。




--avex移籍して最初のアルバムですね。

田中:リリースのタイミングとしては2年ぶりのアルバムになります。Fantastic Plastic

Machine(以下FPM)名義で活動する時は、単なるDJプレイをそのままをアルバムにするの

ではなく、ちゃんと楽曲として成り立ちつつ、クラブでも使える音楽を目指して作ってるん

です。例えば、60年代っぽさとかをどうやってクラブやダンスの手法に封じ込めていくか、

というのがFPMのテーマです。それを変えるつもりはないけど、そのまま同じことを続けて

もつまらないと思い、自分なりに21世紀へ向けての新たなプレゼンテーションをしなくちゃ

いけない、という思いで制作に取り掛かりました。

--今までにない新しいFPMの方向性が現われた作品になったわけですね。

田中:例えば、今は高性能なデジタル機器がとても安く買えますよね。それを使えば誰でも

FPMっぽい曲はすぐに作れるんですよ。もちろん自分が作ってる音楽はそういうものとは決定

的に違うという自負はありますが、でも一般の人がちょっと聴いただけでは音楽的な風合いが

同じと思われてしまってもおかしくない、と感じたんです。そこでまず、自分の得意である手

法とかフォーマットを捨て去ることから始めました。



●「ビューティフルかどうか」がすべての基準



--今回のアルバムのコンセプトはずばり「ビューティフル」ということですが、それも今の話

しの延長上ですか?

田中:もちろんです。DJトラックというと、どうしてもトラックの持つエキセントリックさと

かプログレッシブさに目が行きがちですが、今回はそれ以上に音楽が本来持っている部分を表

現したかったんです。もし音楽が"いい/悪い"に分類されるなら、いい音楽を作りたい。そこ

で"いい音楽"とは何だろうと考えた時に、これまで好きだった音楽をたくさん聴き直したんで

す。そうすると、自分にとって"いい音楽"とは美しいメロディーであったり、美しいコード展

開だったり、美しいストリングスの響きであったり、単純に"美しい"と思えるものなんです。

そういう音楽であれば、クラブだからとかラウンジだからとかいうことはどうでもよくて、こ

ういう音楽がラジオから流れていたら、クラブでかかっていたら、生活の中にあればとても素

敵だろうな、と。そこで、今回は楽曲として一番説得力がある"美しさ"にこだわってコンセプ

トを「ビューティフル」としました。

--具体的な音楽制作の手法にも変化はありましたか?

田中:僕は何事も過剰が好きで、過剰に美しいものを求めてフレンチ・ホルンやオーボエ、ス

トリングスを多用しました。僕の中で"いい音"というのは"やさしく美しい音"なんです。そう

いう意味ではPro Toolsなんかでサンプリング音をロー・ファイに加工して音作りをすること

も出来ますが、響き面でデジタルの音は嫌いなんです。エッヂが立ったデジタルの音はどう加

工しても最後まで残ってしまう。それならば、弦楽器の本来の鳴りをどういうマイク・セッテ

ィングで録れば美しいサウンドになるか、と考えまして。

--それで実際にフィラデルフィアまで行ってレコーディングしたんですね。

田中:はい。実際に当時のスタジオで、当時のエンジニアを使って、当時のミュージシャンに

演奏してもらうというのも一種のサンプリングだと考えてフィラデルフィアのシグマ・サウン

ド・スタジオに行ってストリングスを録音しました。映画の「サタデーナイト・フィバー」で

演奏してた人達ですよ。もちろん、今ではほとんどが老齢ですが(笑)やっぱり美しいんです、

音が70年代っぽくて。でも、僕は"昔の音がいい"とか"今のサウンドがエライ"という意識も全

くないので、これだけ手間と時間をかけてストリングスを録音しておきながら、同じ曲でサン

プリングのオーケストラ・ヒットを使ってるんですよ。ストリングスの生録も、僕にとっては

サンプリングと同一線上にあるものだし、同じレベルのものなんですよね。

--単純に選択肢のひとつであると。

田中:結局は"それを使うことで曲の完成度がどれだけ上がるか"ということだけが重要であっ

て、何の音を使ったのかは問題ではありません。メロトロンとTR-909を混ぜるとどんな音に

なるだろう、とか、マイルスのようなクール・サウンド・ジャズとヒップ・ホップを混ぜると

どんな音楽ができるか、とか時代やジャンル、国境すべて同じレベルという感覚ですね。DJ 

FUMIYAとキリンジが同じ曲で演奏してて、さらにクラリネットとトーキング・モジュレーター

が鳴っているという(笑)。すべて同じくらい好きなものばかりなんです。そのありとあらゆ

るものの中から何をチョイスするか、センスがFPMだと思ってます。



●アマチュア・ミュージシャンへのメッセージ



--現実にアマチュアもプロも同じ機材を使ってトラックを作ってますよね。でもそのチョイス

の基準こそがプロたる所以だと。

田中:実際今は機材のボタンを押すだけで"それっぽい"トラックができちゃうわけですよね。

でも、でも、でも! 僕も宅録からスタートしたし、今でも自宅のプリプロ・ルームでベーシッ

クを作っていますが、アイデアと行動力はアマチュアとは次元が違うと思うし、逆に違わないと

プロではない。言い方は悪いですが「できるもんならやってみろ」というくらいの気持で曲を作

ってますし、今回もその点はすごく考えたつもりです。

--アマチュアとプロの差って、どこにあると考えてますか?

田中:オリジナリティーに尽きると思います。アイデンティティーと言い換えてもいいかも。実

際、アマチュアの作品のクオリティーは圧倒的に上がってますが、チョイスの基準が甘いと感じ

ることは多いです。何かしら自分なりの価値観を持っていることが重要だと思うし、そういう人

に興味がありますね。PCみたいな音楽のスペック競争は意味がないと思うし、2ステップだろう

がハウスだろうが、それも単なるリズムのフォーマットに過ぎない。自分なりの音やセンスを提

示しながらそれを常に更新し続けられるかどうか、そして、その取捨選択の基準を明確に持てる

かどうか、それだけだと思いますよ。DJに関して言えば、どれだけサービス精神があるか。踊っ

てもらってなんぼですからね。その中で自分の個性やスタイルを提示できるか、そのバランスを

うまく操れるのがプロのDJだと思います。

---そういう意味でも、今回のアルバムは音楽的な部分とクラブ的な部分のバランスが絶妙ですね。

田中:リズムに関してはできるだけシンプルにミニマル的に反復させながら、メロディーやコー

ド進行の展開によってトラックの色を見せるように考えました。他にも歌ものやA/B/サビ構成

の曲とかいろんなパターンの曲がありますが、すべての面で妥協のない曲ばかりです。PFMやダ

ンス、ラウンジを知ってるかどうかは関係なしに、音楽として楽しんで欲しいです。でも先日ク

ラブでかけたら予想していた以上にダンス・ミュージックに仕上がっていて嬉しかったですよ。


《プロフィール》

ファンタスティック・プラスチック・マシーン:DJ、リミキサーを始めコンポーザー、プロデュ

ーサー、アレンジャーとして幅広く活動するDJ田中知之のソロ・プロジェクト。97年に小西康陽

の主催レーベル「*********records,tokyo」でデビュー、翌年セカンド・アルバムを発表。

2枚のアルバムは欧米でもリリースされ世界中から注目を集め、ヨーロッパ/アメリカ/カナダで

のDJツアーも大好評を得る。2000年夏にavexに移籍しすぐにレコーディングを開始、今月待望の

サード・アルバムが発表され、それに合わせて「LE GRAND TOURISME DU JAPON(日本大観光)」

と銘打たれたDJツアー2000/12から2001/6にかけて全国40公演予定されている。



《アルバム・クレジット》

Fantastic Plastic Machine

beautiful.

avex trax AVCD-11867

\3,059 1/17発売



インタビュー&文:布施雄一郎